待ったなし!消費税改正をめぐる重要ポイント総点検

講師辻・本郷税理士法人 内田大輔氏

平成26年4月から税率が8%に改正される消費税。各企業では早急な対応が求められています。ここでは、税率の引き上げに係る経過措置の取り扱いを中心に具体的な対応策を紹介します。

企業の注意すべき消費税の仕組み

消費税は、商品流通の各過程において課税されますが、最終的な負担は消費者であり、これをもって「消費税」と呼ばれています。流通の各段階に位置する業者は、自らが受け取った消費税と支払った消費税の差額分を申告して納付するため、理論的には税率が引き上げられても自らの収益には影響がありません。ただ、注意すべき点が2つあります。

1つ目は税率がアップしても、それを販売価格に転嫁できない場合。たとえ転嫁できなくても販売価格から8%の消費税分を除いた金額が売上高となりますから、消費税が増加した分、売上は減少することになります。

2つ目は消費税率の引き上げにより生じる業者の負担増です。税抜きで1000万円の売上と500万円の仕入が発生するケースで課税売上割合(事業年度における課税売上高と総売上高の比率)が60%と仮定した場合、納める消費税は5%の場合は、35万円、8%の場合では、56万円となります。そうしますと、預かっている消費税と納める消費税との差額が、5%の場合は10万円、8%の場合は16万円となり、課税売上割合が100%でない場合には業者の負担が増すことになります。

(1) 消費税率が5%の場合 仮受消費税 50万円、仮払消費税25万円 差引25万円
 消費税申告書 ①仮受消費税 50万円 ②仮払消費税 25万円 ③課税売上割合 60% ④控除する消費税(②×③)15万円 ⑤納める消費税(①-④)35万円 (2) 消費税率が8%の場合 仮受消費税 80万円、仮払消費税40万円 差引40万円 消費税申告書 ①仮受消費税 80万円 ②仮払消費税 40万円 ③課税売上割合 60% ④控除する消費税(②×③)24万円 ⑤納める消費税(①-④)56万円 ※課税売上割合=課税売上高/総売上高 図 消費税の計算方法

経過措置の詳細

消費税率の適用は原則として、棚卸資産の譲渡であれば物の引き渡しがあった日、請負で物の引き渡しを要するものは全納された日、物の引き渡しを要しないものであれば役務の全部を完了した日が原則となっています。ただし「経過措置」という例外規定が定められており、これが実務担当者の最大の注意点となります。

図 施行日における対応一覧

経過措置の対応について、取引の時期や内容で異なる税率などのポイントを、以下に具体的に整理します。ご参考にして下さい。

  • 平成26年3月1日に受注(契約)を受け、4月20日に商品を納品する場合
    8% → 棚卸資産の譲渡については、引き渡しがあった日の税率を適用。
  • 平成26年3月1日に受注し前受金を受け、4月20日に商品を納品する場合
    8% → 棚卸資産の譲渡については、引き渡しがあった日の税率を適用。
  • 売り手は出荷基準で売上を計上し、施行日をまたいで買い手が検収基準で仕入を計上している場合
    5% → 原則、売り手が5%を適用していれば、買い手も5%を適用する。
  • 平成26年3月中に販売した商品を、4月に返品を受けた場合
    5% → 継続して、4月中の返品を3月中の販売に対応するものとして処理している場合には5%を適用。その場合、請求書等に税率を明記する必要がある。
  • 平成26年3月1日に、法人税の短期前払費用となる支出をした場合
    5% → 法人税で前払費用を損金に算入している場合には5%。平成26年4月1日以後の期間分について、8%の税率で請求を受けている場合には、8%で仕入税額控除を適用可能。ただし、4月以降でなければ8%を適用できないため、3月決算法人などは、8%部分は翌期に繰り延べて控除する。
  • 平成26年4月分の賃料を、契約により3月に受け取る場合
    5% → 資産の貸し付けについては、契約または慣習により支払を受ける日に資産の譲渡などがあったものとされる。
  • 平成26年4月をまたぐメンテナンス契約の代金を、契約により3月に受け取る場合
    8% → 原則、役務の全部を完了した日により判定。例外として、1年を単位とする契約で、中途解約した場合に未経過期間分を返還しないものについて、領収時に収益計上している場合には、5%を適用。
  • 平成26年4月以降に乗車・入場するものの料金を、3月以前に受け取る場合
    5% → ただし、運賃や娯楽的・興行的なもの(前売り券)に限られる。
  • 平成26年3月以前に、施行日以後または施行日をまたぐ期間の定期券を購入した場合
    5% → 定期券・回数券・前売り券・年間予約席券などに適用。ICカードへのチャージは、乗車券の販売を行ったことにはならないため、適用されない。
  • 平成26年3月31日までに、従業員に対して定期券代を支給した場合
    5% → 3月31日までに定期券を購入するものとして支給する場合。
    8% → 4月1日以降に定期券を購入するものとして支給する場合。
  • 平成26年3月31日以前に契約した所有権移転外ファイナンス・リース取引で、4月以降にリース料が増額された場合
    5% → 所有権移転外ファイナンス・リース取引は、売買が行われたものとして取り扱われる。
  • 平成26年3月31日までの販売が、長期割賦販売に該当する場合
    5% → 4月1日以降に支払期日が到来するものについても5%を適用。
  • 平成26年3月31日までに長期大規模工事の請負契約を締結した場合
    5% → 法人税法・所得税法の工事進行基準の適用を受けた場合に、3月31日までに収益計上した部分については5%を適用。
  • 発売日が平成26年3月31日以前の新聞・雑誌を4月以降に販売する場合
    5% → 一定期間を周期(週、月)として定期的に発行される新聞または雑誌で、発売日を発行者が指定しているものに限る。
    ※10月30日付で消費税の経過措置が改正され、当該経過措置から「雑誌」が除外されました。
  • 平成8年10月1日から平成25年9月30日(指定日の前日)までの間に締結した一定の工事の請負等に係る契約に基づき、平成26年4月1日以後に引き渡しを行う場合
    5%
  • 平成25年10月1日から平成27年3月31日(指定日の前日)までの間に締結した一定の工事の請負等に係る契約に基づき、平成27年10月1日以後に引き渡しを行う場合
    8%
  • 平成8年10月1日から平成25年9月30日(指定日の前日)までの間に契約を締結し、施行日前から引き続き資産の貸し付けを行っている場合
    5% → 一定の要件を満たすものは、平成26年4月1日以後に行う資産の貸し付けであっても経過措置の対象となる。

(オービック情報システムセミナー東京会場にて講演)

このレポートの講師

内田大輔氏
辻・本郷税理士法人 第一総括部門 部長/税理士

同社にて事業承継、企業再編、企業再生、連結納税等に関する税務コンサルタント業務に従事。特に組織再編を活用したスキームについて数々の実績を積まれています。

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