CRMやBIなどのアナリストとして活躍する傍ら、ソフトウエア&セキュリティーグループのマネージャーとしてITマーケットのリサーチを手がけてきた赤城知子氏。経験豊富な赤城氏に新たな潮流として注目されている「持たざるIT」といわれるクラウドをテーマに、活用の実態やその可能性について事例を交えながら解説していただきました。
クラウドが登場してからおよそ3年、さまざまな形のものが提供され始めていますが、クラウドに対するイメージについて赤城氏は会場に問いかけます。Googleの検索数からクラウドに関するイメージを探ってみると、2011年1月の分析からは、「クラウドとは?」「クラウドサービス」などクラウドそのものや技術、サービスについて知りたい方が多いと赤城氏は分析結果を披露します。また、何かしらクラウドを活用したいと考えて情報収集している方や実際の事例探しを行っている方もいるようです。
IDCでは、クラウドコンピューティングについて「ユーザーはインターネットの向こう側からサービスを受け、サービス利用料金を払う」ものであると定義しており、同様にアメリカ国立標準技術研究所(NIST)が行っているクラウドコンピューティングの定義例を赤城氏は紹介します。NISTでは、クラウドモデルは3つのサービスモデルと3つの種類があると定義しています。
実は、IDCが実施したクラウドコンピューティングの認知調査では、7対3の割合でパブリックなクラウドのイメージを持っている方が多いのが実態だと赤城氏は指摘します。 「では、パブリッククラウドとプライベートクラウドでは何が違うのでしょうか。まずファイアウォールの外にあって不特定多数の利用を目的にするのがパブリッククラウド、内側で構築されたものがプライベートクラウドと位置づけられるといいます。項目的には、拡張性や俊敏性、初期コスト、運用コストなどを比べるとパブリッククラウドの方が優れている面が多いといえます」
ただ、既存のビジネスアプリケーションの移行という観点では、技術的に解決しなければならない部分はあるものの、プライベートクラウドでなければ難しいと赤城氏は断言します。また、IT業界では買収や合併が頻繁に起きており、特にパブリッククラウド事業者が最初に契約したサービスレベルを提供し続けられるかどうか不透明であり、日本とは違う法律の範囲で扱われてしまう危険性もはらんでいると指摘します。
SaaSやPaaS、IaaSごとに主なクラウドの適用領域について詳しく紹介した赤城氏ですが、クラウドのサービスについて企業はどういう対応をしていかなければいけないのかと会場に問いかけます。赤城氏は、すぐに利用できるクイックアクションという面と、中長期的な検討の2通りの対応が検討されるはずだと断言します。これまで見てきた適用領域はすでにクイックアクションで利用できるサービスばかりであり、利用範囲や期間が限定的といえます。IDCとしては、既存ITをすべてクラウドに移行することは現実的ではないと考えており、クイックアクションと中長期的な視点でクラウドの両面を検討する必要があると力説します。
次に、IDCで調査した利用動向をみると、クラウドに対するメリットは経費やコスト削減、運用の手間が減らせるという内容が中心だと赤城氏は指摘します。
「アプリケーションやサービス別に見た最適なクラウド形態については、自治体クラウドなど業界に特化した『業界特化クラウド』と呼ばれるものがデータ分析や設計開発など、PaaS領域について比率が高い傾向となっていることが分かります。また、ERPやCRMなどの領域をクラウドに持っていくべきなのか、およそ4割の企業が分からない状態にあるといいます。ほかにも、クラウドサービスの利用阻害要因についても調査を行っていますが、年々利用阻害に対する敷居は低くなっているものの、セキュリティーに対する懸念はいまだに大きいようです」。
ここで赤城氏は、九州で飲食店などを展開している中堅企業が行った、グループウェアによる案件管理、シフト管理、食材管理の共有化を実現した事例をはじめ、サーバ管理保守と会計システムの集約化を行った自動車関連企業、セキュリティー強化とオンラインストレージによるファイル共有を行っている人材紹介/派遣業など、クラウドサービスの具体的な事例を紹介しました。中堅企業でも積極的に活用することで効果を生んでいるクラウド事例が登場するたびに、メモを取る手を止めてスライドに集中する受講者が数多くいらっしゃいました。
これまでの調査結果や事例を受けて、実際にクラウドの活用に関してどういう方向に向かえばいいのかと赤城氏は問いかけます。
「クラウドからもたらされるのは、『持たざるIT』による初期投資や人件費の削減をはじめ、『小さく開始』することで解約の自由度や経費利用としても利用できる手軽さ、そしてビジネス効果として標準化や無駄の排除などを実現する『情報共有』、そして危惧されるセキュリティーについてもクラウドによって高い『情報保護』を実現できるということです。最終的には、顧客満足度向上につなげられるかどうかが重要なポイントになります」
クラウド活用のステップアップという観点では、無料や廉価版のサービスを試してみることや、カレンダー共有など簡単なものからパソコンとモバイルを連携させるモバイル活用、さらにはWebマーケティングなどWeb活動に使ってみることが、クイックアクションとして考えられるといいます。また、中長期的な検討では、現在の業務を見直して標準化を図るためのきっかけとして、クラウドをステップアップとして検討することも視野に入れていただきたいと赤城氏は提言します。
参考までに、アメリカのIDCでの調査結果を例に挙げ、実はEメールに費やす年間コストや非生産的な情報管理に費やす「見えざるコスト」が数多く存在しており、情報共有系のツールは活用アイデア次第で劇的な効果を生むケースがあると指摘します。この情報共有に関してコストを一気にかけるよりも、使いながらスキルを高めていくことが有効なはずで、こういった領域に関してはクイックアクションで使ってみるという一つの動機づけになると赤城氏は力説します。
最後にクラウド活用に留意が必要な領域として、ERPや生産管理システム、販売管理システムなど、部門の要求が強くて企業の戦略の要に当たる部分だと赤城氏は指摘します。 「高速入力用途やインターネットがつながらないときに影響が大きな業務は、クラウドを利用する場合にはさまざまなことを熟慮する必要があるはずです。中長期的なクラウド活用では、クラウドベンダーとの契約に関してしっかりと考えながら検討する必要があります。また、『買う』と『使う』の損益分岐点を保守費や人件費も含めてしっかりと考慮し、適材適所で最適なものを見極めながら活用することが重要です」と赤城氏は締めくくりました。
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