事業活動の効率化や経営資源の最適配分は企業における普遍的な課題です。その課題を達成するためには原価情報が欠かせませんが、提供された原価情報を正しく理解することが必要です。公認会計士である大塚氏を迎え、製造業における有益な原価計算プロセスについて、事例を交えながら詳しく解説していただきました。実務的な考え方に目からうろこの内容でした。
日常の原価計算手続きから提供される情報を前提にしていることを前置きした上で、まず原価の定義を語った大塚氏。「原価は正常な手続きをもとにおける経営活動を前提」としており、異常な状態を原因とする価値の減少は含みません。また、原価計算は制度としての計算体系が前提であり、財務会計や価格設定、予算統制、経営管理など、さまざまな目的に原価計算が使われます。だからこそ、原価情報は経営者のみならず、生産管理部門や購買部門など、多くの方が必要とする情報になると説明します。そのため、有用な原価情報を提供するための原価計算制度には、以下の用件が求められると大塚氏は指摘します。
では、経営者に絞った場合の原価とは一体どのようなものでしょうか。一般的に会計のプロではない経営者には、会計上の利益やキャッシュフローとリンクしていることはもちろん、何よりわかりやすさが求められます。特に重要なのは、ミスリードを生じさせる危険性を絶対に排除させること。もちろん、オペレーションの実態が把握でき、意思決定に有効な情報であることが大切だと説きます。
ここで、例示したデータをもとに、経営者になったつもりで考えてほしいと会場に問いかけた大塚氏。
「構造上の特性として、原価は直接原価(直接費)と間接原価(間接費)から構成されており、間接原価には配賦計算という人為的な加工がなされています。また、原価は会計ルールの制約を受けており、会計上の利益との整合性が求められるものです。ここでは、直接費と間接費という部分に注目し、その本質を考えていきます。なお、直接費は、製品やサービスの生産に直結する費用で、材料費や外注加工費などがこれに当たります。また、間接費は人件費や減価償却費、水道光熱費など間接的に発生する費用です」
なお、今回のセミナーで大塚氏は、直接費を変動費、間接費を固定費ととらえて話を進めていくと前置きしました。
原価の本質として、製品やサービスの原価には必ず間接費が存在しており、何らかの基準に基づいて振り分けを行う、いわゆる配賦計算が行われております。例えば、作業時間を基準にして配賦した場合、間接費発生額を総作業時間で割る「配賦率」と実際の作業時間をかけ合わせることで配賦額が算出されます。この場合、生産量が多ければ一個当たりの原価に配賦される間接費が安くなり、結果として原価が下がることに。このように生産ラインの操業時間、つまり工場の稼働日数の変化が原価に影響を与えてしまうばかりか、一方の製品の生産状況が他の製品原価に影響を与える危険性もあるのです。
発生費用の月次のばらつきや工場の稼働日数など、コントロール不能な原価の変動を回避するためには、いっそのこと間接費の配賦計算をやめて、直接費のみを原価として考えよう、というものが直接原価計算の考え方だと大塚氏は説明します。
「直接原価計算のメリットは、間接費である固定費の繰り延べが行われることがなく、配賦計算が不要になります。ただ、直接原価計算には、短期的に会計上の利益とリンクしないことや、物の価値形成にかかわる重要な部分が反映しなくなるというデメリットがあることは念頭に置いておくべきです」
それでも直接原価計算による原価情報は、補完的なものとして非常に有益です。特に、売上高から変動費である直接費を引いた限界利益の概念は、非常に重要なデータです。限界利益とは、製品一個当たりの利益あるいはキャッシュフローの獲得能力といえるのです。この限界利益の情報は、販売価格の決定や設備投資の意思決定などにおいて有効活用される指標となります。
「さらに、間接費を含めた原価計算上で、ミスリードを回避するための有用な情報を得る方法はどうすればいいのか。それを解消するためには、あらかじめ決められた配賦率で各製品に配賦してしまおうという予定配賦率の考え方が有効です。予定配賦率で配賦すると、経費削減や生産効率化が可視化でき、コントロールできない原価変動の排除が可能なため正常原価が把握できるなど、さまざまなメリットがあるのです」と大塚氏は力説します。
次に、生産活動を的確に反映させるための原価計算について大塚氏は説明しました。
「ここでは、工程別に原価を把握する工程別原価計算の考え方が有効です。工程別の原価差額が把握できるため、各工程の生産能力のバランスをチェックできるようになり、設備投資の意思決定に有用な情報が提供できるメリットが挙げられます。また、各工程の原価差額の情報は、プロセスの制約条件の特定化や制約による影響額の根拠が得られるようにもなります。さらに、実態に合った仕掛品の評価やコスト低減やQC活動など、部分最適化の評価が可能となります」
ここで、大塚氏はゴールドラット博士の著書「The Goal」という書籍の中で描かれた、ボーイスカウトの隊列の話を例に、ボトルネックとなる工程以外の工程でのQC活動等の部分最適化活動を行うことが負の効果をもたらす危険性があり大切なのはボトルネックの工程に対してしっかりとモニターして、稼働率を落とさないことが重要であること。そのためには、ボトルネックの工程の前の工程をボトルネックの工程の生産能力に従属させること、ボトルネックとなる工程の前に、ある程度のバッファとなる適正量の仕掛品を持っておくことなどが解決策の一つとして考えられると説きます。
「つまり、原価情報を役立つ情報にするためには、一般的な原価計算の枠内で算定された原価情報を、どのように意味があって利用者に的確に伝えていけるか、どのように伝えれば正しく理解できるかということを念頭に提供することが重要です。また、間接費を含めた原価情報がどれほどの有効性をもっているのかをあらためて考えていただきたい。紹介してきた間接費を含めた原価計算の弊害やミスリードに対する懸念を念頭に情報の受け渡しを行うべきなのです」と大塚氏は力説します。
ちなみに、プロジェクト別原価計算は、サービス業や大規模なソフトウエア事業にも利用されるもので基本的には個別原価計算と同様に計算されますが、アウトプットが無形であることが多く収益の認識単位が問題になりやすいもの。「ここでは、まず第一に収益の認識単位に合わせてプロジェクトを考える必要がありますが、この収益認識単位は、今後はIFRSの収益認識基準を考慮していくことが求められます。また工程の設定においてはクリティカルパスが把握できるように工程を設定することがポイントになります」と大塚氏は説明します。
最後に大塚氏は、今後の原価計算が変革を迫られる可能性について「今までは金額ベースだったものが、今後は地球温暖化に関連して新たな気象変動情報の開示や排出権取引などが実施されるようになり生産活動における資源の消費について物量ベースの把握が必要となる、特に温暖化ガスの排出量を正しく把握するための情報の提供が必要となってくるでしょう」と指摘した。原価情報が環境の情報として必要になることも予想されており、将来も見越した原価情報の重要性を再認識する必要があると大塚氏。有効な原価情報とは何なのか、あらためて考えさせられる内容でした。
大塚氏の講演を受けて行われた本講演では、製品のみならず顧客サービスに対する差別化も求められる現代において、製造業が勝ち抜いていくために役立つ収益管理とはどんなものか。収益管理や費用発生、原価分析を中心に事例を交えながら詳しく紹介していきました。
経営判断の指針となるシステム活用の重要性
最近の経営者の方は、収益に関するさまざまな課題を抱え、消費縮小や原料の値上げ、政策終了など、今の製造業界を取り巻く環境は厳しさを増しています。その一方では、リーマンショック以前の状況に戻りつつあるという声も聞かれ、景気が好転しつつある状況といえるようです。ただ、早急に売上が急拡大するわけではない現況で、いかに利益を確保していけるのかについて多くの経営者が考えを巡らせており、経験と勘だけではなく、システムを活用した経営判断の指針を示す時期に来ていると言えます。そのためには、収益の変動要因を分析し、数値的に把握する必要があります。また、その結果を経営戦略として実行に移し、その効果を確認できる仕組み作りが今求められているのです。
収益を伸ばすことをシンプルに考えれば、売上を拡大させ、製造原価を低減し、そして販売経費などを削減することでしょう。例えば売上拡大については、短納期納品の実現や小ロット生産への対応などの取り組みを実施している企業もあり、自社の強みとマーケットを把握する4P分析やSWOT分析、3C分析などに取り組んでいる製造業も増えています。また、製品製造原価の分析については、多くの製造業が取り組んでおり、原価の構成要素分析やその対応策の検討などが欠かせないものとなっています。ただ、販売経費や一般管理費など経費の部分については話題になることが少ない部分ですが、この経費についてもしっかりと考える必要があります。
収益を上げるために把握すべき製造原価
原価を5%低減させて得られるのと同じ利益を出すためには、売上を大幅にアップさせることに加え、製造原価低減が欠かせないポイントです。そこで、製造原価を構成する要素別にコスト削減効果を考えてみると、原材料費・副資材費については、資材購買部での交渉や原材料使用量の適正化などがコスト削減に貢献します。また、労務費に関しては生産効率や生産品質の向上はもちろんのこと、作業日報を効果的に活用して標準作業の選定やラインの再編などを検討することが重要です。もちろん、評価につなげるなど、日報をつけるメリットも現場に示す必要があります。
外注費の適正化については、外注加工単価の見直しはもちろんこと、外注への無償・有償支給品や外注先在庫にもしっかりと目を向けたい部分です。品質管理の面でも、納期遅延件数などを張り出すなど、外注先のコントロールも施策として行うことが有効です。製造経費・間接費などでも、設備投資の費用対効果や水道光熱費などの節減、生産ラインごとに発生する間接費の適正配賦など、コスト削減に向けたさまざまな施策が収益確保には重要です。
さらに、製品製造原価低減のためはどんな分析が必要となるのか詳細に見ていくと、材料費の変動要因を分析するためには、単価改定履歴や生産実績管理、不良理由別発生管理、消費期限管理などが求められ、変動する労務費に対しては、勤怠管理や検査記録管理、生産日報分析などによって変動要因を詳細に分析できる管理項目が必要です。また、外注費の分析には、外注先別加工単価推移を把握し、外注先支給材在庫管理などを実施することが求められます。経費に関しては、水道光熱費や燃料費などの変動分析や減価償却費、研究開発費などの推移が把握できるようにしておくべきです。なお、経費低減については、保管費や製品消費期限切れ、営業サンプル、輸送費、クレーム対応など販売費および一般管理費の変動要素が挙げられますが、それぞれ推移を数値で把握できるシステムが求められます。講演は、実際の管理帳票を例に挙げながら、具体的に解説を進められました。
現場の情報が反映されるシステムであること
最近のシステムには、業務プロセスの最適化はもちろん、経営戦略支援のためのシステム化が要求されるとよく聞きます。経営基盤の強化や経営戦略の推進、情報の共有・活用など、より経営に近い部分でシステムを活かしたいと考える製造業が増えてきたというのが実感です。ただ、システム構築にはバランスが必要だというポイントも忘れてはなりません。自社の強みを活かすための自由度の高い生産販売管理とともに、財務管理部分では法令順守やガバナンス強化を目指す標準化の取り組みも必要であり、双方を意識したシステム構築が求められます。
OBIC7では、生産・販売情報システムをはじめ、IFRSにも対応可能な会計情報システムを提供しており、製造業を強力にバックアップする体制を整えています。
最終的には、経営を具体的に判断できる情報を提供することがシステム上で求められます。特に、属人的な情報ではなく、現場で発生した生の情報をスピーディーに正確に提供できるかどうかが、収益を上げるために欠かせないポイントになることでしょう。
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