「統計学が最強の学問である」の著者が語る!
意思決定者へ提案するための統計解析術

講師統計家 西内啓氏

最善の意思決定のためには、何をゴールとし、何を分析し、何を明らかにしていくべきか? ベストセラー作家であり最強の統計家である西内啓氏が、独自の統計解析術を伝授。同氏の統計解析による課題解決フレームワークと実践法を、直接学ぶことができる貴重な講演となりました。また、関連して、オービックからOBIC7による情報資産活用のデモンストレーションがありました。

分析のボトルネックとは

現在西内氏は統計家ですが、出身は東大医学部。ただ、そこでは医師になる学問ではなく、統計学やデータ解析の方向から医学を研究してきたそうです。医学に統計学が用いられたのは1990年代初頭のことで、以来急激に浸透し、今では当たり前になっています。「医師に理解しかねることをいわれたら『そのエビデンス(証拠)は何ですか』とお尋ねください。きっと態度を改めるでしょう」と、自身の経験を踏まえたアドバイスをします。

一般にデータ分析には図1のようなサイクルがあります。市場→データ→分析者→管理者→担当者→施策、そして再び市場へとつながっています。「分析では、この工程の1カ所でもボトルネックがあると、ゴールに導くことができません」と西内氏は訴えます。データの質が悪いと分析しても使い物になりません。質の良いデータでも、分析者が現場をよく知らないと正確な数値が出てきません。分析数値が良くても、管理者に理解がなければそこで止まってしまいます。「『ビジネスは数字ではない』と経営者にいわれてはどうしようもありません」(西内氏)。また、たとえ管理者が適切な意思決定をしても、担当者のレベルが低くては効果的な施策を打ち出すことができません。

このサイクルで成功しているのがAmazonです。Amazonは購買履歴を分析し、商品を購入した顧客が続けて購入しそうな商品を提案しています。「これを自動化したところにAmazon成功の秘訣があります。このサイクルをコンピューター処理し、ボトルネックになりやすい人間系の判断を入れなかったのです」と、西内氏は評価します。

 一般的なデータ分析の流れ 管理者、担当者、施策、市場、データ、分析者のサイクル

「集計」から「分析」へ

データを集め集計するだけでは分析にはなりません。集計して「購入者の8割が満足」というデータがあっても、分析とは呼べません。ここにおいて「満足度を9割にしたい」「他社よりも満足度を高めたい」など、具体的な目標と比較することで分析となり、意思決定へとつながります。

「ここにセンスが求められると思いがちですが、属人化されがちなセンスではなく、『ルール』づくりをしてください」と、西内氏は推奨します。例えば来店頻度の多い顧客、営業成績の良い従業員、滞留在庫率の低い商品を比較して、違いを見つけられるような分析の「型」を用意します。

また、データ収集では従来よくいわれているような「仮説」ではなく、「問い」を発するようにします。「仮説はYES、NOで答えられ、先に進まないことが多くあります。これに対して、問いは次のデータを得ることができます」(西内氏)。例えば「従業員にやる気があるか」と質問してもYESまたはNOで答えられるのに対し、「従業員はどうすればやる気を出すか」と質問すると、さまざまな回答を得ることが可能となります。

「アウトカム」と「解析単位」

分析の方針には、「アウトカム」と「解析単位」の2つのポイントがあることを覚えておきましょう。

統計家である西内氏に寄せられる最も多い質問が「XXに関するデータをいっぱい集めたんですが、どうすればいいでしょうか?」だといいます。これを「何がどう変わるのが望ましいか」に置き換え、「何が」が「アウトカム」で、「どう変わる」の単位が「解析単位」です。

「アウトカム」とは「望ましさ」を具体的に定義したものです。例えば利益の最大化をゴールとする場合、検討しなければならないアウトカムに「売上」と「コスト」があります。その「売上」と「コスト」を左右するものに「顧客」「商品」「広告」「シェア」などがあり、これらが「解析単位」となり、高低・大小・上下・多寡・優劣などを分析します。

解析単位としては、

  • Who:顧客・従業員・パートナー
  • What:商品・サービス・設備・取引
  • How:広告・研修・キャンペーン
  • When:年・シーズン・月・週・日時
  • Where:地域・営業所・店舗・施設

のように考えると分かりやすいでしょう。

分析結果からアクションへ

アウトカムと解析単位を定めたら、それらから分析してアクションを導き出します。アクションの方向性には「動かす」「ずらす」「最適化する」の3つがあります。例えば「購買」において、動かせるものとしては「心理要因」「広告接触」「ブランド力」などがあります。中には動かせないものもあり、これらはずらすことで対処します。それが「性別」「年齢」「世帯年収」です。性別は動かせませんが、男女半々に売れている商品の女性の割合を増やすなどがその例です。動かすこともできない、ずらすこともできない場合は最適化を考えます。季節や天候は変更できませんが、仕入数を最適化することにより在庫ロスを削減できます。

このような分析によって、「ビジネスの現場にイノベーションを起こしましょう。たとえ数%の変化にせよ、企業にとっては大きなインパクトになります、医師が分析結果を元に診療を行うのと同じようにビジネスの現場においてもデータ分析が当たり前になる日はすぐそこです」と会場に呼びかけました。

このレポートの講師

西内啓氏
統計家

東京大学医学部卒。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。35万部を超えるベストセラーとなった

「統計学が最強の学問である」(ダイヤモンド社刊)など著書多数。

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