セミナーレポート オービック情報システムセミナー 2011年秋

システムインテグレータのオービック

意思決定と業績管理に活かす!経営に本当に役立つ管理会計

C51 16:10−17:40

経営環境がめまぐるしく変化する中、迅速かつ適切な経営判断が求められており、管理会計の重要性が増しています。しかし、管理会計とは何か、誰を対象としており、どのように使用するのか、そもそも財務会計とはどのような違いがあるのでしょうか。今までの既成概念が覆され、新たな管理会計の本質を浮かび上がらせる金子氏の迫力のある講演に、セミナー参加者の多くが真剣にペンを走らせていました。

金子 智朗 氏
公認会計士/税理士/ ブライトワイズコンサルティング 代表社員
名古屋商科大学大学院 教授/ 多摩大学大学院 客員教授

1.財務会計と管理会計の違い

会場の様子

「財務会計は外部に公表するための会計であり、管理会計は内部の人間を対象にした会計の仕組みです」と、金子氏は冒頭で明確に区別します。

そもそも、財務会計はベニスの商人の時代まで遡るといわれています。当時は貴族がお金を出して船を調達し、雇い入れた乗組員に船旅をさせます。ひとたび港を出てしまえば貴族の目は届きませんから、乗組員たちにお金の出入りをすべて記録させ、港に戻ってきたら貴族に報告させました。これが財務会計の始まりです。財務会計は港で待っている貴族(国あるいは出資者)のための会計なのです。そこに乗組員の視点はありません。

乗組員にとって必要な情報は、天候が荒れたり、他の船が現れたときに、どちらに舵を切り、どの方向に進んでいくべきか、それを判断するのに役立つ情報です。現代に置き換えれば、天候は外部経営環境であり、他の船はライバル企業の動向です。「この乗組員のための情報が管理会計です。港でのんびり待っている貴族向けの財務会計情報では、乗組員には不足な部分が多すぎます」と金子氏は断言します。

財務会計の利益の意義は2つしかありません。それは「税額計算の基準値」と「配当計算の基準値」です。まさに国と出資者、すなわち貴族のための会計なのです。

財務会計の利用目的は、過去の業績の集計・報告であり、完全に過去のデータの取りまとめです。
一方、管理会計は管理=マネジメントのための会計であり、「意思決定と業績管理」が主な目的となります。マネジメントのヒントを与えるのが管理会計なのです。「全力疾走している先が絶壁だったらどうでしょう。勢いがあればあるほど危険です。この方向の判断を支援するのが管理会計です。ほとんどの会社は財務会計の延長線上で管理会計をやっています。だから判断を誤るのです」(金子氏)

業績管理も忘れてはいけません。人は評価指標、すなわち採点基準に基づいて行動します。このため、何をもって指標とするかが極めて重要となります。

この管理会計には法規制がなく、どのようにでも実施できます。「しかしながら管理会計には『カタチ』があります。その『カタチ』を示すのが、今回のセミナーで最も訴えたいことです」と金子氏は強調し、次から管理会計のあるべき「カタチ」と「活用方法」を具体的に説明しました。

2.強化すべき部門、撤退すべき部門はどこか

「ここにサンプルとなる財務会計の『損益計算書』と『部門別損益計算書』があります。皆さんは部門別に損益を管理すれば管理会計だと誤解してはいませんか」と、会場に問いかけました。例えば、この部門別損益計算書から見て、強化すべき部門はどこと思われるでしょうか。また、撤退する部門はあるのでしょうか。

ほとんどの人は利益率の高い部門Aを強化すべきであり、赤字となっている部門Cを撤退の候補に挙げるでしょう。「それが判断の間違いです」と、金子氏は指摘します。
強化すべき部門は、売上高の変化に正比例する限界利益(=売上高−変動費)を見るべきですが、その限界利益がこの部門別損益計算書には示されていません。それを確認すると、部門Bが最大の限界利益となっており、ここを強化するべきなのです(例1)。

また、各部門で個別的に発生する個別固定費を控除すると、部門利益はプラスとなっており、本社費配賦額などの共通固定費の「回収エンジン」になっています(例2)。「このため、全部門が収益に貢献しており、撤退する積極的な理由はありません。一見部門Cが赤字に見えますが、ここを撤退すると全社が赤字転落します。これも判断の誤りです」(金子氏)

3.火中の栗を拾わせるには?

会場の様子

次に人事部では、問題のある部門に「デキる人材」を送り込んで、その部門を立て直そうと考えているとします。しかし、赤字部門に行ってなかなか黒字化できなければ、自身の評価も下がることが予想されるので、誰も進んで行こうとはしません。「こんなことと管理会計に何の関係があるかと思うでしょう。しかし、このような人のモチベーションの問題も、適切な指標設定によってクリアにすることができるのです」と、金子氏は力説します。

ポイントは、部門の評価と部門長の評価は異なるということ。部門長ができることには限界がありますから、その裁量の範囲内で評価しないとモチベーションに悪影響が出ます。「管理できるかどうかの範囲を部門別損益計算書に設けることです。すなわち、部門長にとって管理可能な『管理可能費』と、部門長にとって管理不能な『管理不能費』を明確に区別したカタチにします(例3)。前者の『管理可能費』で評価すればフェアな評価ができ、モチベーションも下がることはありません」(金子氏)。

4.本当にやるべきことは何か?

単純な「部門別損益計算書」に「限界利益」をプラスすることで強化する部門がわかり、「部門利益」をプラスすることで撤退するべきかどうかがわかります。さらに、「管理可能費」と「管理不能費」を区別することでモチベーションの問題も解決できます。そして、金子氏が最後に加えたのが、「本社」という項目でした(例4)。「本社費として妥当な金額は30百万円であり、予算超過額は、本社のムダや非効率性が原因と考えられるとします。そのとき、全社利益を改善するためにやるべきことは、本社が本社の予算超過額をゼロにすることです」と指摘します。

本社は妥当と考えられる経費から12百万円超過しており、本来の30百万円であれば部門A,B,Cいずれも黒字となります。「このようなカタチであれば、本当にやるべきことが何かがわかります。これが管理会計のカタチのひとつの完成形です。あとは経営課題やマネジメントの目的に応じて、各企業がアレンジしていくことが必要です」と、金子氏は最終的な管理会計の“カタチ”を示しました。

さらに、金子氏が“生態系モデル”と呼ぶ米国グーグルの例が紹介されました。金子氏は、「グーグルの収益源の大半はオンライン広告であり、他の事業、例えばグーグルマップやグーグルアースから収益を上げることは考えていません。全体としてひとつの『生態系』と捉えているため、事業別の細かな採算管理をしないのです。このような配賦しない経営管理モデル、利益責任が問われない組織を許容する経営管理モデルもあっていいと思います」と、まったく別の視点も紹介しました。

まさに、従来の常識を覆すような指摘の連続でした。セミナー修了後には、レジュメとして配られた配布資料をもっと欲しいというお客様への対応に係員が追われたほどでした。

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